矢頭先生には、たくさんの学術論文や専門的な著書があるけれども、
そのほかに「文学植物記」とか「植物百話」といった軽快なタッチの著作もある。
「植物百話」は、ご自身と植物とのかかわりをエッセイ風に描いた文章であるが、
その最終章に「仰げば尊し・・・忘られぬベルゼス神父」というお話が書かれている。
私はそのページを読むたびに感動をおぼえるので、ここに紹介したい・・・
若き日の先生は、植物分類学に必要なラテン語を学びたいと考えていた。
一面識もない神父さんを教会に訪ねたのは5月のこと。
快く会ってくれたベルゼス氏は早速入門を許してくれた。以下引用・・・
『次の問題は謝礼のことだが、率直に聞いてみると5円でいいという。お嬢さん芸のピアノの月謝
が2円という当時のことだから、これなら何とか払うこともできると思って、それではよろしくといっ
たところが、フランスの習慣かこれは1回分だとわかって驚いた。
しかし、こんなに高い謝礼を払うなら一言一句もムダにはすまいと思い、勉強の時間も許される
だけ長く粘る決心をした。そして謝礼の方は毎回、新しい角封筒に入れて神父さんにお渡しした。
やがて秋になり、この勉強の方も一段落した。その年の暮れのクリスマスの日、突然神父さん
はニコニコしながら私の家に来て、クリスマスのあいさつとともに、大型封筒を私にくれた。何か
と思ってそれを開いて見ると、中には美しいカードとともに今まで私の届けた謝礼が全部封も切
らないで入っていた。・・・』 〈矢頭献一著 「植物百話」 昭和50年 朝日新聞社〉

《ブルーボネットのクリスマス飾り
ガラス張りのコンサバトリーはレストラン》
