「次郎物語」は、幼少期に里子に出された主人公「次郎」の成長を描く、
下村湖人の自伝的色彩が濃い小説である。
その中で、岩の割れ目に落ちてしまった松の種が、過酷な条件にも拘わらず根を伸ばし、
ついには岩を砕いて自分の生きる環境をつくりだすという話が語られる。
尊敬する朝倉先生が、運命に負けそうになる少年次郎に
勇気を与えようとして話す逸話である。
この逸話そのものの松の木が長野県飯田市の名勝「天竜峡」に実在する。
JR駅から、姑射橋やつつじ橋を巡る散策路の途中、
もっとも眺めのいい吊り橋を渡り、目もくらむばかりの龍角峯を登りきったところ、
巨大な花崗岩の最上部の割れ目に赤松の大木が根を張っているのだ。
松は、乾燥地にも耐えて生育できるという性質をもっている。
そんな強靱な生命力が、このような奇跡を成し遂げたのであろう。

《天竜川の水面からそそり立つ龍角峯》

《巨大な花崗岩を持ち上げた松の根》
